iPhoneでも3Dスキャンが出来る?3Dスキャナって便利なの?

形状を生み出すのが3Dプリンタとすれば、読み取るのは3Dスキャナの仕事です。
そんな3Dスキャナの技術革新も日進月歩で進んでいます。

今回は3Dスキャナの歴史と、最新の3Dスキャナではどんなことが出来て、3Dデータとしてどんな活用ができるのかについて簡単にご紹介していきます。

3Dスキャナの起源
~3Dスキャナはここから始まった?~

3Dスキャナの起源は、今でも土木建築作業には欠かせない『三角測量』と言われています。

三角測量(さんかくそくりょう)とは、基線の両端にある既知点から測定したい点への角度を測定し、その点の位置決定を行う三角法を用いた測量方法です。

上の画像においては目標地点Cに対し、基線Lの両端A、Bから目標地点の角度を測定する。
Lの距離もしくはA,Bの座標が既知であれば三角関数を利用して点Cの座標、あるいはCまでの距離dを求めることが出来ます。

正直、理系に身を置いていますが、こういった関係は明るくないので書いていても自分の頭に「?」が浮かびそうになりましたが、中学・高校で学んだ三角関数を応用した技術が3Dスキャナの基礎になっているということを知っていただければ大丈夫です。

3Dスキャナの技術は1970年代頃から使用されるようになります。
まずは接触式3Dスキャナや原始的なステレオカメラを使った3Dスキャナが登場します。
接触式3Dスキャナは非接触式3Dスキャナで測定することが難しい対象物や高精度が求められる測定の際に、現在でも広く用いられています。
ステレオカメラによる3Dスキャナは、このあと紹介する光投影式3Dスキャナの基礎にになった3Dスキャナです。
その後、2000年代に突入するとレーザー光を用いた3Dスキャナが誕生します。このころに登場した3Dスキャナは、対象物を3Dデータ化するという基本的技術は実現できていましたが、対象物の色が複雑に混在している対象物をスキャンすることが出来なかったり、黒い物体はすべてスキャンが出来ませんでした。また、測定精度も0.3mm程度とまだまだ粗く、ソフトウェアの性能もそこまで高度なことが出来ないなど、課題も多くありました。

2010年代以降は技術革新が進み、黒色や鏡面を持つ対象物の3Dスキャンが可能になったり、小型化、高性能化が図られ、様々な3Dスキャナが登場しています。
また、スキャナ本体の販売価格も2000年代と比べて安価で高性能な機種が登場しており、中小企業や個人でも導入が可能になってきました。
更に、ソフトウェアの性能向上も図られ、操作性が良くなったり、直感的に扱いやすいアプリケーションになったりと、技術革新が進んでいます。

では次に、3Dスキャナの種類について触れていきたいと思います。

3Dスキャナの種類

現在、入手可能な3Dスキャナは以下の通りです。

それぞれの特徴について、少し詳しく触れていきましょう。

「接触式」3Dスキャナ

センサーや探針を対象物へ直接触れさせることで、形状を計測する3Dスキャナです。
そのため、探針が入り込めないような入り組んだ形状や探針で検出しきれないぐらい微細な模様や意匠面は測定ができません。
ですが、非接触式では測定が難しい対象物が測定可能であったり、測定精度が非接触式よりも優れていることから、今でも広く使われています。
基本的には据え置き型となるため、測定できる物体のサイズにも限界があります。小型なスキャナは卓上で使用が可能です。機種によっては持ち運びもある程度は可能となります。大型のスキャナは多軸のロボットアームの先端に探針がついているものが多く、アーム側、テーブル側共に、基礎を固定する必要がある機種も存在するため、そういった機種を使用する場合は測定物を持ち込む必要があります。
対象物を固定し、1点づつ接触させて測定していくため、測定に時間がかかります。対象物の形状によっては、測定に技術が必要な場合もあります。

FARO Quantum 

次に「非接触式」とは

非接触式では、レーザーなどの光線を対象物へ照射し、その反射光を受光するまでの時間や入射角度などの情報を元に、形状データを検出する方式です。
以前は高価で扱いが難しい機種が多かったですが、最近は安価でも精度が高く、扱いやすい機種が増えてきました。
非接触スキャナはスキャニングの方式で分類があり、更にそれぞれで「据え置き型」と「ハンディ型」があります。
まずは、スキャニング方式の大きな種類分けとして、『レーザー光線方式』と『パターン光投影方式』をご紹介します。

レーザー光線方式』は、対象物へレーザー光を照射して対象物との距離を計測・算出し、形状を読み取ります。
レーザー光線方式の中でも“三角法方式”、“TOF(タイムオブフライト)方式”、“位相差方式”という3つの方式に更に細かく分けられます。
“三角法方式”は高精度な計測が可能ですが、長距離の測定には向かないため、比較的近距離の範囲、または小さい対象物の計測に適しています。
“位相差方式”は三角法方式よりも大きな対象物を計測でき、短時間で大量の点群データを取得できます。
“TOF方式”は数百メートル、数千メートルという距離を測定できるので広範囲の対象物の計測に適しており、建造物などの測定に向いていますが、計測時間が長めです。
レーザー光線方式は、人体や生物などには使用することができません。最新の機種ではカラー情報も取得することが出来るため、歴史ある建造物や文化的価値の高い建造物などのデジタルアーカイブに使用されたりと、活躍の場が広がっています。

パターン光投影方式』では基本的には物体へ光線を物体に当てて、反射する時間差や照射角度を解析することで、3次元形状を取得しています。
投影されたパターンが対象物の凹凸によって変化する様子をカメラで記録することで、対象物の座標データを取得することが出来ます。
光源にLEDを使用している機種が多く、人体や生物に使用することも可能です。

次に「据え置き型」と「ハンディ型」についてご紹介します。

据え置き型」に関しては、スキャニング方式で分けて説明します。
まずは”レーザー光線式の据え置き型”について、基本的にレーザー光線方式の3Dスキャナは建造物のような大きなものや庭園などの広範囲を測定する際に使用するため、据え置きと分類はしますが、測定する場所まで機材を運搬し、設置して使用するタイプを指します。上の画像でご紹介しているような機種は据え置き型と思ってください。
次に”パターン光投影方式の据え置き型”については、回転するテーブルに対象物を置いて回転させながら対象物へ光線を照射し、カメラで反射光などを読み取って形状や色を取得します。一般的に据え置き型の方が精度良く形状取得できますが、撮影位置や角度の変更など取り回しは良くありません。また、機種自体のサイズによって回転テーブルのサイズが決まっているため、乗せられる大きさに限界があります。テーブルが小さいものだと手のひらサイズぐらいまでしか計測できません。しかし、細かな装飾なども高い精度で測定できる場合が多いです。回転テーブルが大きい機種だと各辺1mぐらいのサイズの計測物も測定できます。しかし、手のひらサイズ以下の小さなものは測れない場合や精度が出ない場合があります。また、パターン光投影方式の据え置き型は、持ち運んで使用することを考慮されていない場合が多いので、測定物をスキャナがある施設へ持ってくる必要があります。なので、その場所から動かせない様な計測物は測定ができません。

ハンディ型」は“スキャナ本体を測定者が手に持って”測定を行います。その為、手ブレなどで精度が落ちる場合もありますが、据え置き型では何度も取付角度を変えたりして計測する必要がある入り組んだも自分が動くことで計測が可能です。また、スキャナの機種によって異なりますが、計測できる大きさも据え置き型に比べて自由度が増す為、手のひらサイズの小さなものから、自動車の車体などの大きなものまで計測することが可能です。
最近はパターン光投影方式のハンディスキャナが比較的安価で精度の高い機種が登場しています。また、レーザー光線方式のハンディ型にはリュックのように背負う形で移動しながら広範囲を計測することが出来る機種もあります。

対象物の大きさや欲しい精度、カラー情報が必要かなどで使用する3Dスキャナを選択するのが良いでしょう。
3Dスキャンを専門に扱う企業もありますので、3Dスキャンが必要なモノがある場合は、一度相談してみるのもよいと思います。

そんな大層なレベルじゃないんだよな…という場合もあるでしょう。
最近のiPhoneやiPadは顔認証システムを搭載しているモデルがありますよね?そのシステムで使用している「赤外線カメラ」が3Dスキャンでも使用できます。
この顔認証システムでは使用者の顔を赤外線カメラで取り込むことで、顔のパーツをデジタルマッピングしています。このマッピング機能を使うことで、3Dスキャンが可能です。さらにLiDARスキャナを搭載しているiPhone12Pro/Pro MaxやiPhone13Pro/Pro Maxはハンディ3Dスキャナとして手軽に使用するには十分な機能があります。
アプリストア内には無料・有料問わず、いくつかスキャン用アプリケーションがラインナップされています。気になった方は、一度検索してみてください。

androidにはないのか?という声が聞こえた気がします。
もちろんandroidにも3眼カメラを搭載したモデルもあり、3Dスキャナのように使用できるアプリケーションもありますが、まだまだ精度や使い勝手がiPhoneと比較すると芳しくないため、手軽に使うにしても劣ります。なので、手軽に3Dスキャンをしたい!という方にはiPhone12 Proをお勧めします。

また、やや蛇足といか脱線的なお話ですが、非接触という方式で言えば、医療関係で使用されるX線CTやMRI非接触スキャナという分類になります。通常、接触式・非接触式を問わず、対象物の表面情報のみしかスキャンすることができないのに対して、X線CTやMRIは内部形状を測定出来る為、これまでなら分解、解体、場合によっては破壊しなければ不良箇所の検査が出来ない様な場面でも、分解や破壊をすることなく検査を行うことが可能です。(非破壊検査)
そのため、有名な例ですと、エジプトのピラミッドから出土した調度品やミイラなどをMRIで内部をスキャンすることで、解剖や破損させることなく研究を進めるなどしていたようです。

3Dスキャナの活用事例と未来予想図

過去の事例を検索すると、各業種様々な事例が紹介されています。
土木・建築分野では、現地の測量情報を3Dデータ化しておくことで、施工前の状態をデジタルデータとして記録し、自然災害に対する対策などにも役立てられています。
製造分野ではリバースエンジニアリングだけでなく、設計データと製造物の差を確認することで、設計データの改良などにも活用されています。
医療分野では、これまで義手や義足など装具関連を作成する際の型取りで患者側にも大きな負担を伴う場合がありました。そういった患者側の情報も3Dスキャンによって取得することで、患者側の負担現状にも繋がっています。
また、文化財の保護でも3Dスキャナが活用されています。これまでのように写真や映像として平面的な情報だけで残すのではなく、3Dスキャンによって物体の形状までもデータ化しておくことが可能になりました。形あるものは大小限らず経年劣化してしまいます。また、日本においては地震などの自然災害などで文化財指定された建造物や歴史的出土品などが倒壊・破損するといった可能性も大いにあります。そういった品々を『デジタルアーカイブ』という形でデータとして現状を保存することで、仮に一部破損が発生した場合などでも、そのデータを元に復元することが可能になります。

先ほどのiPhoneの例でも挙げましたが、セキュリティでも3Dスキャンの技術が活用されているように、様々な場面で活用され、身近なものになってきています。

現状では、3Dスキャンしたデータを活用は「何かを作るため」という側面が大きいです。そのため、“実際の製品の設計・計測データと実製品の両方が存在”しています。
ですが、これからのDX化社会(デジタルトランスフォーメーション)において、3Dスキャナによる『形状のデータ化』という技術はさらに身近なものなっていくでしょう。
特に、VR(仮想現実)やAR(拡張現実)といった分野で今自分が持っているものを3Dデータ化することで、仮想現実内に現実にある自分の部屋をそのまま作ることが可能になります。もっと実用的なところでは、持っている家具・家電を事前に引っ越し先の部屋の中へVR上でレイアウトすることで、引っ越した先での生活のイメージしやすくしたり、不要物の選定にも役立つかもしれませんね。
また、自動車などの工業製品、工業製品を作るための工作機械の展示ブースをVR上に作成して、オンライン展示会を実施する例などもすでに始まっています。

既に昨年から始まっているともいえるNFTにおいては“実際に製品や物体として存在はしないが、データ自体に価値ある”といった価値観が生まれています。
今は「現実にオリジナルとして存在するものに価値があり、そのコピーとしてデータを作る」という状態ですが、ゆくゆくは「オリジナルはデータしか存在せず、そのコピーとして現実にレプリカを作る」という逆転現象が起こるかもしれませんね。

こういった世の中のデジタル化に伴い、3Dスキャナの需要は高まっていくでしょう。
スキャナ自体の技術革新、それを取り巻く環境の技術革新、扱う社会の技術革新…
アンテナをしっかりと張り巡らせて時代に乗り遅れないようにしないといけませんね。
今後も3Dデータ、3Dプリンタに限らず、3Dスキャナなどの3D全般にかかわるトピックについてもブログにしていきたいと思います。

それでは今回はこのあたりで、ここまで読んでくださりありがとうございました。

By M.I

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