3Dプリンタは危険?3Dプリンタを取り巻くとても大事なお話

おはようございます、こんにちわ、こんばんわ

いつも真面目にお話していますが、今回は少しお難いお話を…

昨年12月から今年の3月にかけて、色々3Dプリンタについてお伝えしてきましたが、そこでは触れていないけど3Dプリンタを語る上で切っても切れないお話をしたいと思います。

今回のお品書きはこちら

銃について
法律のお話

それではいってみましょう!

銃についてのお話

3Dプリンタを扱う身として、

「コレ(3Dプリンタ)で銃も作れるんでしょ?」

というご質問を時々頂きます。

一言に銃と言っても拳銃、ライフル、マシンガン、機関銃と多種多様あり、
一般的には拳銃や短機関銃の事を指しながらおっしゃっているんだと思います。

ですが、改めてお応えするとすれば

「作れません」

皆様の記憶に新しいとすれば、2018年に愛知県の大学生が
“3Dプリンターで製造した拳銃を所持したとして、
銃刀法違反(所持)の疑いで逮捕”という事件でしょうか。

銃社会とも言われるアメリカ合衆国でも2021年5月7日に以下の発表がありました。

米司法省は7日、当局による捕捉が困難な自家製銃に関する新たな規制案を公表した。
「火器」の定義を1968年以降で初めて見直し、組み立てれば銃として使用可能な部品も規制対象とする。購入者がキットを組み立てる自家製銃は「ゴースト(幽霊)銃」と呼ばれ、現在は規制対象外。米国内で複数の犠牲者を出す銃撃事件が相次いだことを受け、バイデン大統領は4月の演説で「銃暴力は疫病だ。国際的な恥だ」と述べ、司法省に対策を指示していた。

規制案は、銃製造に使用可能な部品の販売者に購入者の身元確認を義務付けるほか、部品にも製造番号を明記させる。3Dプリンターで製造された銃も規制対象となる。

司法省によれば、2016~20年に押収された製造番号のない銃は2万3000丁を超え、そうした銃に関連する殺人や殺人未遂は325件に上る。ガーランド司法長官は声明で、新たな規制によって「銃が持つべきでない者の手に渡るのを防ぎ、法に従う国民を守るとともに、犯罪に用いられた銃の捕捉を容易にする」と強調した。

時事ドットコムニュース 自家製銃の規制案公表 「火器」の定義見直し―米 より

日本での事件でも、記事の中でも触れられている”3Dプリンターで製造された銃”という部分。
ワイドショーなどでもここばかりが切り取られ、不安を煽るような表現でコメンテーターの方々が話しているのを聞いている方が多い為、「3Dプリンタ=危険なもの」という認識をされている方もいらっしゃるのではないかと思います。

ですが、それは大きな間違いです。

現在、家庭用として売られている数万円程度の3Dプリンタでも同じ形を作ることは『技術的には可能』と思います。

なぜわざわざ”技術的には”と書いているのかを考えず、可能という言葉じりだけを取って「やっぱりできるんじゃないか!」をおっしゃる方もいらっしゃるでしょう。

ここで間違って欲しくないのは、我々エンジニアが『技術的に可能』という場合、

現状の技術を用いれば「再現は可能ではある」が、正常に機能する保障は無い

と思ってください。

更に噛み砕いて言えば“やろうと思えばできるけど、実際に使えるかは分からない”ということです。

もっと端的に言えば”やってもいいけど、どうなってもしらないよ?”です。

ここまで言っても尚、「できるんでしょ?」という方に向けて、もう少し詳しく説明します。

家庭用とされている数万円程度の3Dプリンタで扱える材質は光造形方式なら通常のレジンの他、ABSライクやアクリルライクのもの、FDM(FFF)方式ならPLAやABS、ちょっと頑張ったものでナイロンやHIPS辺りとなっています。

銃器として「発砲」することを考えると、上記の材料では強度がまったく足りません。

銃器に使用される弾薬は下図の様な構造をしています。

画像ではライフル等の弾薬ですが、拳銃用の弾薬も構造自体は同じです。
発砲した際、実際に飛び出すのはコア(弾芯)の部分です。
それでは次に拳銃(ピストル/リボルバー)の構造を見てみましょう。

リボルバーの方が構造がシンプルで分かりやすいのでそちらを例にします。
銃弾が飛び出すメカニズムはハンマー(撃鉄)を起こした状態でトリガー(引き金)を引くとハンマー(撃鉄)がプライマー(雷管)に衝撃を与え、火薬に着火。
着火した火薬の爆発力を使って、コア(弾芯)を押出します。
押出されたコアはバレルを通って銃の外へ飛び出し、バレルが向いている方向へ飛んでいきます。

拳銃やサブマシンガン(短機関銃)で主流の9mm弾は、弾頭重量が7.5gから9.5gのあいだです。
重さだけ聞くと軽いですが、10g程度の金属の塊が高速で打ち出され、殺傷能力を有する程の爆発力を出せる火薬が1発の銃弾の薬室に込められています。
爆発力を銃器内部で抑え込むことが出来なければ、使用者の手元で小さな爆弾を爆発させているのと同じことになります。

それぐらい強度が必要となる為、実際の銃器のグリップ以外の部分は金属で作られています。

金属同等の強度を有する樹脂を使って、銃器に準ずるレベルの代物を、家庭用の3Dプリンタで使える樹脂材料で作ることは”ハッキリ言って無理”です。

上記の理由から、家庭用として市場に出回っている樹脂材料を使う3Dプリンタで「拳銃や短機関銃の様に、連続して銃弾を発砲できる」様な銃器を作ることは、出来ませんと言い切れます。

「”暴発した場合、あなたの手が使えなくなるほどのダメージが残る可能性のある”、1発撃てるかどうかもわからない、本物と同じ形をした銃火器の様なモノ」を実際に撃てるかどうか試す勇気が貴方にありますか?

1発撃った衝撃で銃火器と思しき物は爆散し、使用者にも重大なダメージがあったとしても、”弾が出て標的に当たれば殺傷能力がある”とすれば、危険物に違いないので、銃刀法違反、又は武器等製造法の対象となるでしょう。
ですが、それは”銃火器を作った”というより、”武器になり得るモノを造った”と表現する方が適切かもしれません。

もちろん、金属3Dプリンタを使えば、同等の性能を持った火器を作ることは可能と思いますが、市場で販売されている金属3Dプリンタは最安価でも1千万円近い価格ですし、家庭用というモデルは現時点では販売されていません。
なので、個人で銃器を作ろうとするには、かなりハードルが高いです。

金属3Dプリンタの出力サービスを行っている会社さんもたくさんありますが、データ入稿時のチェックですべてNGとなるでしょう。
もちろん、弊社でもそういったデータの入稿はお断りさせていただいておりますし、仮に入稿されても他社様と同じようにチェックの際にNGとしています。

法律についてのお話

銃刀法というお話の流れで、法律に関するお話に移りたいと思います。

3Dプリンタに関わってくる法律というと

  • 知的財産権に関わる法律(著作権法、特許法、実用新案法、意匠法、商標法など)
  • 製造・所持等を禁止する法律(銃刀法、武器等製造法など)
  • 製造物への責任に関わる法律(製造物責任法など)
  • その他の法律(個人情報保護法、肖像権など)

といった辺りが主な部分ですかね

データさえあれば出力できるのが3Dプリンタの良い所ですが、その”データ自体の著作権”や”どうやってそのデータが作られたか”といった部分についても、最近は議論がなされています。そのお話は、また別に機会に取り上げたいと思います。

先述で銃刀法や武器等製造法的な部分には触れましたので、以下では知的財産権に関わる部分について触れていきます。

既存の製品や建造物には、著作権だけでなく立体商標を有している場合のものがあります。
例えばコカコーラ®のビンであったり、ヤクルト®の容器がそれに当たります。
また、商標ではなく意匠登録という形での権利登録がなされている場合もあります。

普段手にする商品に©、®、TMといった表記がされているものを見たことは無いでしょうか?
©は”Copyright”の頭文字で、著作権を有することを示すマークです。
®は”Registered”の頭文字で、その商標が登録されていることを示すマークです。
TMは”Trade Mark”の頭文字で、登録の有無に関わらす、商標であることを示すマークです。

こういったマークがついているものは、何かしらの権利がかかわっている為、安易に複製・模倣することは著作権侵害や商標侵害に当たる可能性があります。

ついてないならOK!というわけではありません。
特に®は表示することが義務化されていないので、付いていなくても登録されている場合があるからです。
これらの表示が無くても、著作権や商標に関わる問題は慎重に見極めが必要になります。
弊社でもキャラクター系のデータについては、不要な混乱を避ける為、有名キャラクターのデータ化や出力依頼はお断りさせていただいております。

オリジナルではないキャラクター関連の例として、二次創作としてのコスプレやジオラマ作成など、商用目的で利用しない場合については、版権や商標等の問題が無いかを十分に確認した上で、製作可能な場合はデータ製作や出力対応を行わせていただいております。
”商用利用”されるか否かという所が大きく関わってくることもあり、グレーな部分も多くありますので、場合によってはお断りさせていただくこともあります。その辺りは予めご了承下さい。

ですが、それぐらい著作権や商標などはシビアなお話であるということは、十分にご理解頂きたいです。

データさえあれば、何でも作れるという3Dプリンタだからこそ、何でもやっていい訳ではありません。
ルールや法律は後から整備されるので、今まではOKだったものが来月にはNGになるということもよくある話です。

3Dプリンタでの製造は、強度や実用性と言った面ではまだまだ従来の加工法や製法には及ばない部分が多くあります。
何でもそうですが、一長一短があるから、目的に適したツールを上手に使うことが重要です。

データを作るところがハードルが高い場合もあるので、インターネットで検索をかけて、ソレっぽいものを見つけて出力する

なんてケースもあると思います。

そのデータ、どんな権限が付いているデータかちゃんと確認しましたか?

というのも、海外では個人で作った3Dデータを自由に投稿・公開しているサイトやデータ自体を販売しているサイトもあります。そういったサイトには各データにライセンスを表示している場合がほとんどです。

ライセンス表示は各サイトによって規定が異なる場合も多いですが、統一規定を設けることで、著作物の適正な再利用の促進を図り、創造活動を活発化させようという国際的な働きを行っているのがクリエイティブ・コモンズ(略称CC)というアメリカの国際的非営利団体です。

クリエイティブ・コモンズ・ライセンスおよびパブリック・ドメイン・ツールが使用されるのは作者が自作品を他者に共有、使用、二次創作の権利を付与する場合である。
ライセンスとツールは作者の求める誓約を柔軟(例として自作品を非商用のみでの使用許可を選ぶことが出来る)に提供し、いくつかの頒布条件の異なるライセンスを提供している。

wikipwdia-クリエイティブ・コモンズ・ライセンスより

この頒布条件の異なるライセンスというのが以下のアイコンの組合せで表現されています。

左側にある©は先述のcopyrightsです。基本的な権利は著作者にあります。
それをふまえた上で、著作者自身が著作物の利用をどこまで許諾するかを示したものが、CCのライセンス表示です。

各アイコンには以下のような意味があります。

BY(表示)

NC(非営利)

ND(改変禁止
SA(継承)

BY(表示)は、作品を複製、頒布、展示、実演を行うにあたり、著作者の表示を要求することを意味する。2004年に改訂されたVer2.0以降は全ライセンスで原作者の表示が義務図けられてました。基本的には、以下の情報を表示することを義務付けています。

  • 著作権情報を含ませる
  • 作者名、芸名、ユーザーIDなどを引用する
  • 著作物のタイトルもしくは名前を引用する
  • 著作者の下に特定のCCライセンスを引用する
  • もし二次創作物もしくは翻案である場合に告知する

NC(非営利)は、作品を複製、頒布、展示、実演を行うにあたり、非営利目的に利用に限定することを意味する。

ND(改変禁止)は、作品を複製、頒布、展示、実演を行うにあたり、いかなる改変も禁止することを意味します。楽曲の場合、時間調整の為に長さを変えたり、フェードイン・フェードアウトを行うといった行為が著作物の改変に当たる為、NGとなります。画像の場合、サイズ変更、トリミング、色相・明度・彩度調整、文字入れなどの行為が改変に辺り、NGとなります。

SA(継承)は、ライセンスが付与された作品を改変、変形、加工してできた作品についても、元になった作品と同じライセンスを継承させた上で頒布を認めることを意味しています。このマークが付いた著作物(A)を利用して二次著作物(B)を作った場合、更に他者がBを利用してCを作ることを無条件で許諾しなければなりません。

これらのアイコンを組み合わせることで、6通りの統合されたライセンスを定義しています。
(※単純な掛け合わせだと16通りの組み合わせが存在しますが、BY(表示)を含まない組合せ、ND(改変禁止)とSA(継承)条件の組合せはCCのライセンスでは無効なため、含まれません)

CC BY
作品を複製、頒布、展示、実演を行うにあたり、著作権者の表示を要求する
CC BY-NC
作品を複製、頒布、展示、実演を行うにあたり、著作権者の表示を要求し、非営利目的での利用に限定する
CC BY-SA
作品を複製、頒布、展示、実演を行うにあたり、著作権者の表示を要求し、作品を改変・変形・加工してできた作品についても、元になった作品と同じライセンスを継承させた上で頒布を認める
CC BY-NC-SA
作品を複製、頒布、展示、実演を行うにあたり、著作権者の表示を要求し、非営利目的での利用に限定し、作品を改変・変形・加工してできた作品についても、元になった作品と同じライセンスを継承させた上で頒布を認める

CC BY-ND
作品を複製、頒布、展示、実演を行うにあたり、著作権者の表示を要求し、いかなる改変も禁止する

CC BY-NC-ND
作品を複製、頒布、展示、実演を行うにあたり、著作権者の表示を要求し、非営利目的での利用に限定し、いかなる改変も禁止する


こういったライセンス表示によって、著作物の適切な利用を促し、クリエイティブの分野の活性化を図ることでより良い作品の創出や不正コピーの排除に繋がっています。もし、これを読んでいる方が今後、素材サイトや投稿サイトでこういったアイコンを目にした際には、ちょっと気にしてみてください。

インターネットは便利ですし、必要な情報やデータを検索すれば手に入りやすい世の中になってきました。3Dデータも検索すれば各国の象徴的な建造物やモニュメントのデータも出てきます。もちろん、それを私的複製として作ることは問題ありません。ですが、作ったものを販売したり、「公衆に提示する」と私的複製に当てはまらない為、著作権法違反となる場合があります。公衆に提示する、今のご時世で言えばツイッターやFB等のSNSに投稿することも含まれるでしょう。手軽に出来るからこそ、知らないでは済まされないケースも出てきますので、著作物の扱いについては十分に気を付けましょう。

さて、ちょっと怖がらせるような内容もありましたが、3Dプリンタを取り巻く状況というのは、良いことばかりではないということを少しご理解いただければと思います。

もちろん、我々に御依頼頂いてデータ作成から行う場合、データの著作はお客様に帰属します。ツイッターやブログ等で「こんなデータ作成の御依頼がありました」ということをご紹介するケースもあると思いますが、そういったものは事前にお客様へ御確認を行い、社外秘に関わる部分を除いた範囲のみを掲載させていただいておりますので、ご安心下さい。

今後も3Dプリンタに関する情報やお役立ち情報などもブログを通してお伝えしていけたらと思っています。

それでは、ここまで読んで頂きまして、誠にありがとうございました。

by M.I

弊社の3Dデータ作成サービスはこちらを参照ください。

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